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仙台高等裁判所 昭和63年(ラ)55号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一  抗告の趣旨及び理由

別紙一、二(抗告状及び抗告理由書の写し)に記載のとおりである。

第二  当裁判所の判断

一件記録によれば、次の事実を認めることができる。

一  抗告人は、建設業を営んでいたものであるが、昭和五九年一〇月一八日、福島地方裁判所会津若松支部に対し、抗告人が有限会社原田硝子店外五六名に対して三〇〇〇万円余の債務を負担し、その支払が不能の状態にあり、かつ、破産財団をもって破産手続の費用を償うに足りないということを理由として、自己破産及び同時破産廃止の申立(同裁判所同支部同年(フ)第四六号破産申立事件)をし、同裁判所同支部は、右申立を理由があるものと認めて、昭和六〇年一月一七日午前一〇時抗告人を破産者とする破産宣告及び同時破産廃止の決定をし、右決定は確定した。

二  しかし、抗告人は、右確定事件(以下「前件」という。)において、破産法三六六条ノ二第一項所定の免責申立期間内に同裁判所同支部に免責の申立をせず、同条五項の申立の追完をもしなかった。

三  その頃、抗告人は、右債務のうち、親に保証してもらった国民金融公庫に対する約二〇〇万円、株式会社オリエントファイナンスに対する約五〇万円、会津木材センターに対する約一五〇万円合計約四〇〇万円の債務(以下「支払債務」という)について、右債権者らに対し、親とその半額宛を負担して支払った。

四  抗告人は、免責の申立をする目的をもって、昭和六二年一〇月三一日、前件の債務のうち、前項の支払分等を除く有限会社原田硝子店外四二名に対する一五九三万円余の債務につき、依然としてその支払が不能であることを理由として、原審裁判所に対し自己破産及び同時破産廃止の申立(以下「本件破産申立」という。)(同裁判所同年(フ)第四五号事件)をし、原審裁判所は、右申立を理由があるものと認めて、同年一一月二四日午前一〇時、抗告人を破産者とする破産宣告及び同時破産廃止の決定をし、同年一二月一〇日右決定の公告をしたが、この間、抗告人は、同月七日右債務について、原審裁判所に対し免責の申立(同裁判所同年(モ)第五一九号事件)をした。

以上、抗告人は、前件当時の支払不能の状態が一旦解消された後に再び新しく支払不能の状態におちいるなどしたのではなく、前件において、破産法三六六条ノ二による免責申立を懈怠(故意又は過失で)したため、支払債務を除く債務につき、専ら免責を受けることを目的として、前件時から継続し、これと全く同一の支払不能を主張して、再度の破産申立をし、本件破産宣告及び同時破産廃止決定を受けた上、本件免責申立をしたものであることが明らかである。

そうであるとすると、本件破産及び同時破産廃止の申立は、明らかに破産法三六六条ノ二の制限を免脱するためのみでなされたもので違法であり許されないものといわなければならない。したがつて、本件免責申立も不適法であり許されない。もっとも、本件については、申立に基づき、再度の破産宣告及び同時破産廃止決定(前件の破産裁判所は福島地方裁判所会津若松支部、本件のそれは同裁判所本庁)をしているが、これは単に同一債務者につき同一の破産原因(支払不能)に基づき、支部と本庁において前後して同一内容の破産宣告及び同時破産廃止の決定がなされたというに過ぎず、右結論を左右するものではない。また、破産債権者の変動・破産債権額の増減など破産債権に変更があるとしても、それだけでは債務者の支払不能状態の同一性・継続性がなくなるものではなく、法人の破産原因の一つである「債務超過」の場合とは違い、事件は実質的に同一性を失うものではないと解するを相当とする。

よって、本件免責の申立は不適法として却下を免れず、結論においてこれと同旨の原決定は正当であるから、本件抗告は理由がないので棄却することとし、抗告費用につき民訴法九五条、八九条を準用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 三井喜彦 裁判官 武藤冬士己 裁判官 松本朝光)

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